犬の居場所から始まった問いを、札幌の公共空間と市民協働の提言へ「公園にドッグランがあったらいいのに」。月寒公園犬部の活動は、そんな一人の市民の小さな違和感から始まりました。2023年から2025年にかけて、月寒公園で仮設ドッグランを6回実施。候補地を調べ、仮設ネットを張り、受付や利用ルールをつくり、参加者アンケートを取り、事故や騒音、マナー、近隣への影響についても記録しながら、条件を変えて実証を重ねました。2023〜2025年度の6回では累計324匹の参加が記録され、参加者アンケートでは、イベント満足度84.1%、犬を通じたコミュニティ形成への肯定評価91.8%、マナー改善への期待84.5%、常設ドッグランができた場合の利用意向95.1%という結果が得られました。しかし、この3年間で見えてきたのは、「ドッグランが必要かどうか」という問題だけではありませんでした。むしろ大きな問いになったのは、市民が公共空間について小さな提案をしたとき、それをどう試し、どう評価し、行政の意思決定へつなげるのかということでした。市民協働は、「一緒にイベントをすること」だけではない市民活動には、楽しい部分があります。SNSを見る。イベントへ行く。アンケートに答える。一度だけ手伝う。企画に参加する。一方で、活動を続けていくと、安全管理、事故対応、苦情、マナー、近隣調整、行政との協議、費用、責任分担といった難しい問題にも向き合うことになります。月寒公園犬部でも、参加者が増えることと、活動を継続して担う人が増えることは同じではありませんでした。「イベントを楽しみたい人」「当日だけ手伝いたい人」「継続して運営したい人」「行政と協議し、制度そのものを変えたい人」これらは、本来それぞれ異なる参加の形です。すべてを一つの「市民活動」や「ボランティア」という言葉でまとめてしまうと、一部の担い手に責任や調整負担が集中します。この経験から見えてきたのは、市民協働とは、市民に行政の仕事を担ってもらうことではなく、市民と行政がそれぞれの役割を持ちながら、一緒に試し、学び、判断していく仕組みをつくることではないかという問いです。問題が起きたからこそ、実証する意味がある3年間の活動では、騒音への苦情やイベント内での負傷事故もありました。しかし、社会実験の目的は「問題が起きないことを証明する」ことではありません。場所、時間、参加人数、ルール、動線、住宅との距離などの条件を変えながら、どの条件なら便益と負担を両立できるのかを学ぶことにあります。本レポートでは、月寒公園での経験だけでなく、港区・芝浦中央公園のドッグラン、代々木公園、池袋・グリーン大通り、南池袋公園、福山駅前、札幌市内のスケートボード事例や屯田西公園なども比較しました。そこで見えてきたのは、行政が最初から課題として位置づけた社会実験には、試行から評価、実装へ進む経路がある一方で、市民が先に始めた小さな実践を、その実績から行政判断へつなぐ経路は必ずしも明確ではないということでした。犬の話から、札幌の「パークトライアル」へそこで本レポートでは、札幌市への二つの提言をまとめました。一つは、月寒公園で、候補地や騒音、安全、他の公園利用者への影響、運営負担などを測りながら、条件付き常設ドッグランまたは6〜12か月の長期社会実験を行うこと。もう一つは、札幌市全体に「市民提案型パークトライアル制度」をつくることです。犬、子どもの遊び、スケートボード、スポーツ、花、マルシェ、コーヒー。市民の「こんなことをやってみたい」という小さな提案を、最初から「できる/できない」で判断するのではなく、小さく試し、データを取り、問題があれば条件を変え、行政・公園指定管理者・市民が一緒に評価する。そして、長期実証へ進むのか、恒久化するのか、あるいは終了するのかを、その理由とともに残していく。そんな仕組みです。このレポートが残したかったもの月寒公園犬部は、最終的に常設ドッグランを実現した活動ではありません。だからこそ、この3年間には残す意味があると考えました。市民の提案は、どこまで市民が担うのか。行政は、どこから責任を持つのか。問題が起きたとき、禁止するのか、条件を変えてもう一度試すのか。市民活動の成果を、次の行政判断へどう渡すのか。これは犬だけの問題ではありません。公共空間を、市民と行政が一緒に育てていくとはどういうことなのか。月寒公園犬部の3年間を、参加者アンケート、活動記録、自由記述、問題と改善のプロセス、他都市との比較から整理し、札幌の次の仕組みへつなげる政策提言としてまとめました。市民に公園を管理してもらうにはどうするか、ではない。市民の小さな「やってみたい」を、札幌という街の意思決定につなげるにはどうすればよいか。その問いをまとめたレポートです。月寒公園犬部_市民協働実証研究・政策提言レポート_v1.8_2026-09-13.pdf